浦川和也 写真集「すみだ川画暦(えごよみ)~THE SUMIDA RIVER ALMANAC〜」

浦川和也 写真集「すみだ川画暦(えごよみ)~The Sumida River Almanac〜」2冊組、リマインダーズ・フォトグラフィー・ストロングホールドにてご注文受付を開始いたしました。



『すみだ川画暦(えごよみ)~The Sumida River Almanac〜』

私は2012年頃から隅田川の定点観測を続けてきました。天候や潮の干満等によって水面の表情はいつも異なり、川沿いの木々は季節に応じて多様な表情を見せます。さらに行き交う船や構造物の変化、すなわち人の営みが加わることによって川の眺望は一瞬として同じことがありません。しかしこのような微小な変化に対して、私たちの視覚と意識は意外と鈍感です。

ある日、定点観測を続けながら隅田川について調査を進める中で、歌川広重が描いた三枚組の浮世絵に出会いました。広重が描いた隅田川は現代の眺望とは似ても似つかないものでしたが、その川の線形から正に当時私が定点観測で向き合っていた場所であるように感じ、この一致を浮世絵の中に示された地名や社寺の名称から確認することができました。そして毎日の定点観測に観る微細な変化と約200年前に描かれた浮世絵との対比から、美術史家ジョージ・クブラーが提唱した「系統年代」を思い出し、隅田川の歴史を遡りはじめたのです。

クブラーの提唱した「系統年代」とは、私たちが日常の中で使用する時間軸である「絶対年代(absolute age)」と対立する時間性の概念です。彼は、あらゆる事物は各々異なる時間軸である「系統年代(systematic age)」を持っていて、その系統年代に起因する特徴を持つとともに、事物の置かれた時代がもたらす特徴や外観としてのまとまりをも持った複合体になると述べ、絶対年代による等質的な歴史観では捉え難い時間の複数性や非同期性に注目しました。都市は言うまでもなく様々な系統年代を持つ事物の複合体であり、その時間性は系統年代の複合として表れるのです。

東京は約400年という短期間で世界有数の大都市に変貌を遂げましたが、ヨーロッパの諸都市と比べると歴史的記憶に乏しく現在でも相当な速度で変化し続けています。江戸時代以降、改変の歴史を繰り返しながら首都を代表する川であり続けてきた隅田川は、江戸・東京のドラスティックな変化を見てきた生き証人と言えるでしょう。200年前とは全く変わってしまった眺望と200年前から変わらず残る線形の対比、一年の中に見える微細な変化、そして隅田川にまつわる様々なエピソード、これらをひとつのオブジェクトに圧縮した本プロジェクトは、東京の生き証人である隅田川の系統年代を浮き彫りにするのです。

浦川和也


書籍詳細
①The Sumida River Almanac
サイズ:120㎜×210㎜
和綴じ、ソフトカバー、786ページ
※表紙の写真は、55部全て異なります。選択はできませんので、お手元に届くまで楽しみにしてください。
②The Sumida River Almanac:Draft
サイズ:329㎜×241㎜
中綴じ、ソフトカバー、112ページ

◎部数:55部
◎写真・編集・印刷・製本: 浦川和也
◎コンセプト、ストーリーライン、アートディレクション:後藤由美(リマインダーズフォトグラフィーストロングホールド)
◎価格:22,000円(消費税込、別途送料)、 全エディション署名入り