7 Factors of Cities まえがき

私たちは人口、交通、防災などの様々な課題を解決しながら、土木、建築、環境、情報など、多種多様な技術の集大成として都市を築いてきました。また、都市は技術の集大成というだけでなく文化が集積される場でもあって、そのものが視覚芸術作品になる可能性も持っています。ただし、作家の意思・思想をもとにつくられる他の芸術作品とは異なり、都市は長い時間をかけ、不特定多数の意思の積み重ねによってつくられるものですし、そのプロセスは止まることなく継続し完成を迎えることはありません。

一方、都市の日々の変化に目を移すと、都市をかたちづくるすべての要素は各々が独自のスピードとシークエンスで動いていて、それらの調和、衝突、交錯などがいつも異なる様相を生み出します。したがって、私たちは同じ場所を何度訪れたとしても、まったく同じ瞬間に遭遇することはありません。人々が都市に魅了されて止まないのは、この変化の継続性にあると思いますし、私が都市をテーマに写真を撮り続ける理由も同じくここにあります。ただ、この変化の継続性は、エキサイティングな体験を私たちにもたらす一方で、優れた都市景観を一瞬で消し去ってしまう可能性も持った、いわば諸刃の剣のようなものです。

本書では、その「都市をかたちづくる要素」を「地形・地勢」、「街路」、「建築」、「住居・居住地域」、「広場・オープンスペース」、「巨大さ」、「時間と記憶」の7つと定義しました。なぜこの7つなのか、一言で説明するのはなかなか難しいのですが、以下に簡単な私見をまとめます。さらに詳しくは巻末に掲載した参考文献をお読みいただければと思います。

 1.地形・地勢

 すでに多くの地域で都市化が進んだ現代においては、新しい都市の立地選定に立ち会える機会はほとんどありませんが、都市の選地は社会が下す重大な決断であり、都市の成り立ちに大きな影響を及ぼし続けます。一度選ばれた場所で成長しはじめた都市は、その「地形・地勢」から逃れることができません。

 2.街路

 建築の敷地を規定し、様々なインフラのルートとなる「街路」は、一度決められれば容易に変わることはなく、都市の基盤となる要素です。一方、大通りは大通りに相応しい、路地は路地に相応しいアクティビティが生まれ、都市の賑わいの舞台となるのも「街路」であり、訪れた人々に都市を印象付けるという重要な役割を担います。「街路」はそんな二面性を持った要素だと言えます。

 3.建築

 「建築」は技術と文化の具体的なアウトプットであり、それぞれの時代を映し出す鏡のようなものです。様々な時代の建築が立ち並ぶ街並みは歴史のモザイクのようですし、ある時代の建築がまとまって残っていれば群の建築として、あるいは地区全体としてより大きな時代の鏡となるでしょう。

 4.住居・居住地域

 「住む」機能を持たない都市はありません。「住居・居住地域」は文字通り都市に不可欠な要素で、その形式や形態は都市の構造や社会環境と密接に結び付いています。たとえば、近年、大都市で数多く建設されているタワーマンションが、地方都市に建つと何か周囲から浮いた印象を与えることが多いのは、住居と都市構造との結び付きが軽視されているせいなのかもしれません。

 5.広場・オープンスペース

 人々が集まり、面的に様々なアクティビティが発生する「広場」は、都市における重要な活動の場です。しかし歴史的に日本の都市にはヨーロッパのような広場がほとんどなく、多くは近代以降につくられたものです。日本の社寺の境内は比較的自由に出入りできる「オープンスペース」で、ヨーロッパの広場に近い存在かもしれませんが、明確な境界を持ち都市に開かれていない点において、ヨーロッパの広場とは異なります。

 6.巨大さ

 都市において他を圧倒する「巨大さ」は、巨大であること、それ自体が特別な存在になります。かつては社寺や劇場、城郭など、特別な存在と結びついていた「巨大さ」は、現代の都市では日常的な存在となり、私たちのスケール感や距離感を大きく変化させました。さらに「巨大さ」は社会の要請や技術の発達にともなってその尺度を拡大し、都市の構造を確実に変容させていきます。

 7.時間と記憶

 相応の時間の積み重ね無くして都市は都市らしさを持ちえません。都市の賑わいやアクティビティは都市の記憶となり、モニュメント、建築あるいは街区割りなど、様々なかたちで時間をかけて蓄積されていきます。計画的につくられた新興の都市や地域が、街としての懐の深さを増すことなく時間だけが経過してしまった様子は、「時間と記憶」が都市に必要不可欠な要素であることを実証しているように思います。

 都市は刻々と変わり続け、今の姿は今しか見ることができません。本書に収録した写真には既に無くなってしまった建築もありますが、それ以外の多くの場所も数年後には今とは違った姿になっていることでしょう。本書を通じて、都市の今が持っている魅力や楽しさを少しでもお伝えすることができれば幸いに思います。