東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)

外観

【DATA】

  • 所在地:東京都港区白金台
  • 設計:アンリ・ラパン、宮内省内匠寮
  • 施工:戸田組
  • 竣工:1933年

 1925年にパリで開催された「現代装飾美術・工業美術国際博覧会」から世界中に広がったアール・デコのデザインをほぼ完全な形で見ることができる国内唯一の建物です。もともとは宮家の一つである朝香宮家の邸宅で、現在は東京都庭園美術館として公開されています。

庭園側のバルコニー
次の間のバルコニー
外壁見上げ
塀のあるグリル

 外観は非常にシンプルで華美な装飾は見られず、宮家の住宅という華やかなバックグラウンドから考えれば地味な印象を受けます。しかし、グリルのデザインや食堂の丸く張り出した部分のパラペット等の細部のデザインから、内部で展開される豊穣なデザインの片りんをうかがうことができます。 設計を手掛けたのは、フランスでインテリア・デザイナーや工芸家として活躍していたアンリ・ラパンと、皇室専用の設計組織であった宮内省内匠(たくみ)寮です。
 ラパンは、装飾美術家協会の副会長として「現代装飾美術・工業美術国際博覧会」の開催に尽力を注ぐとともに、この博覧会でデザイナーとしても活躍しました。朝香宮鳩彦・允子夫妻は、渡仏の際に博覧会をご覧になってアール・デコに心酔し、その博覧会でデザイナーとして活躍したラパンに自邸の設計を依頼したものと思われます。
 ラパンは、1階の大広間、次の間、大客室、小客室、大食堂、2階の書斎、殿下御居間の基本設計を手掛けており、主要な装飾品は、ラパンをはじめとするフランスのデザイナーによって製作されました。接客空間ということもあって、これらの空間には非常に華やかな装飾が繰り広げられており見所はつきません。
 一方、内匠寮で設計に当たったのは、多くの優秀な建築技術者を輩出した住友総本店工作部を経て宮内省に入省した、権藤要吉を主担当としたチームで、ラパンの手掛けた居室を除く全ての基本設計と実施設計全般を手掛けたようです。 2階は主に生活空間となっていて、アール・デコに大きな影響を受けたと考えられるインテリアや照明器具など、ラパンのデザインと同様に大変見ごたえがあります。
 このような豊かなデザインが展開されるインテリアと並ぶ重要な要素として、建物と庭園との関係が挙げられます。
 玄関から最初に客人を迎える「次の間」のバルコニーには青色の大理石が張られた2本の丸柱が整然と立ち、室内からはこの2本の丸柱に切取られて洋風庭園を望むことができます。 一方、次の間から繋がる「大客室」は大きな開口部を設け、列柱の並ぶバルコニーとテラスを介して洋風庭園の広大な芝生に繋がります。このバルコニーは、室内から見える側にのみ大理石が全面に張られており、ここが内部空間と同様に非常に重視されたことが伺われます。そして、大食堂は洋風庭園の端に面していますが、外部に向かって円形に張り出すことで、洋風庭園を望むことができるようになっています。 さらに、2階の庭に面したバルコニーは、大きな窓から庭園を見下ろす明るい部屋で、白黒市松模様のタイル張りの床がモダンな空間を演出しています。
 アール・デコによる豊かなインテリアが、このような内部と外部との関係性が合わさることで、表層のデザインにとどまらない空間の豊かさをつくり出しています。百聞は一見にしかず。このすばらしい空間をぜひ体験してみてください。