綿業会館

綿業会館ファサード見上げ

【DATA】

  • 所在地:大阪市中央区備後町
  • 設計:渡辺節建築事務所
  • 施工:清水組
  • 竣工:1931年

 東洋紡の専務取締役だった岡恒夫氏の遺贈金を基に綿業関係者のためのクラブとしてつくられた建物で、現在でも当時の用途のまま大切に使われています。設計は、大阪ビルヂング旧館等を手掛けた戦前の大阪を代表する建築家 渡辺節によるもので、独立直前の村野藤吾がヘッドドラフトマンとして設計に携わったことが知られています。

綿業会館 外観
綿業会館 談話室
綿業会館 食堂

 外観はスクラッチタイル張りを基調とした三層構成のファサードに縦長の窓をバランスよく配置し、装飾を抑ええたシンプルなデザインですが、建設当初は3階の窓廻りには鉄製のバルコニーが設けられ現在よりも華やかな外観だったようです。これらは戦時中の金属供出で失われて現在は見ることができませんが、玄関扉のグリルや庇に当時の華やかな様子を伺うことができます。
 一方、内部に目を移すと、好みに応じて利用者に好きな部屋を選んでもらええるようにという設計者の配慮から、全ての部屋が異なる様式でデザインされており、ルネッサンス期のパラッツォの中庭を思わせる1階ホール、清水焼のタイルを壁一面に張り回したタペストリーのある談話室(写真3段目)、天井の装飾も見事な会員食堂(写真4段目)、クイーン・アンスタイルの貴賓室アンピール・スタイルによる会議室など、いずれの部屋も非常に見ごたえのあるものとなっています。
 また、この建物はデザインが優れていただけだけではなく、設備等にも当時としては先駆的な試みが施されており、将来の冷暖房設備の普及に配慮して機械室をあらかじめ設けるとともにダクトを太くしたり、井戸水を利用した冷房設備が導入していたといいます。また、開口部にはワイヤー入りのガラスを採用し火災に備えていたため、空襲に見舞われ焼け野原となった船場にありながら戦火をまぬがれました。空襲による火災で歪んだガラス窓が北側にそのまま残されており、当時の空襲のすさまじさを伝えています。
 このような先駆的な設備等の積極的な導入は、良質な様式主義的デザインによってクライアントの要望に応える一方で、設備や施工等に対しては徹底的に合理性を追求した渡辺節の設計姿勢が表れていると言われています。
 この建物は平成15年12月に国の重要文化財として指定を受けており、今後も大阪 船場地区の重要なランドマークとして船場の街を見続けていくことでしょう。なお、事前に申込みが必要ですが、毎月第4土曜日に館内を見学できます(有料)。
問合せ先
日本綿業クラブ 06-6231-4881