善照寺本堂

善照寺 ファサード

【DATA 】

  • 所在地:東京都台東区西浅草
  • 設計:白井晟一
  • 施工:竹中工務店
  • 竣工:1958年

 NOAビルディング、松涛美術館などを手掛けた建築家、白井晟一氏の最高傑作との声も聞かれる寺院の本堂。浅草の賑わいから西に外れた雑然としたまちの奥まった狭い敷地に建ち、静かな表情で街に向かい合っています。

善照寺 階段
善照寺内部
この内部写真は外から撮影したもので、内部の見学はできません。

 銅板噴きの緩やかな切妻屋根が架けられた高床式の建物は、大きく張り出した軒、片持ちスラブの基壇、黒塗りの柱型、3箇所の大きな開口部、ストイックなまでに要素が限定されていて、大きく張出した軒と基壇、石の段板が独立して浮かぶ美しい階段によって、開口部の少ない閉鎖的な外観ながら軽快で浮遊感を生み出しています。
 また、建築的なエレメント同士の取合いは無造作と言えるほど簡略化され、特に軒天と壁の取合いは非常に簡素な納まりで、全体の浮遊感を生み出すのに一役買っているようです。この簡略化された納まりはパッラーディオのロトンダのポルティコ内部の壁と天井の取合いに通ずるものを感じます。
 内部は勾配屋根の形状がそのまま現された大きな空間で、反返った天蓋が架けられた内陣が入子状に配され、八角形の黒塗りの独立柱が並び、3つの窓からの光の効果によって、実に幻想的な空間となっているようです。ここに並ぶ参列者用のベンチも美しいデザインで内部空間にぴったりと合っていますが、これは白井晟一氏によるデザインではなく、松本の民芸家具だそうです。前述の外観の閉鎖性と浮遊感が、本堂内部に導くための効果的なアプローチとなっていることがよく分かります。
 この寺院は、一般にモダンなデザインという評価が多く聞かれますが、西洋の建築様式が入ってきた明治から近代・現代にかけて様々な建築家が構想した「現代の和風」という課題に対する白井晟一による解答が表されているように思われます。